クレヨン、それからカレンダー

チラシの裏よりすこしひろい

墾田永年私財法、ファンダムの表明、白い正方形、誇りと五千円

春先にイカしたキャップを買った。一見おしゃれなフォントで「KONDEN Einen shizaiho your rice field」と書いてある。

墾田永年私財法!めちゃくちゃクールじゃん!かわいい!と思って買ったが、墾田永年私財法に特に思い入れがないのにかぶっていいものか、聖武天皇奈良時代のファンが仲間だと思って話しかけてきたらがっかりさせてしまうかもしれないな……などと考え、いまだにあまりかぶっていない。

生類憐みの令とかだったらまだなんとかなったんだけれども。

 

着ているもので同じファンダムの人間だと知らせる文化、なんかいいよなと思う。ジャニーズのコンサートとかなんらかのオタクイベントとかでは全身を統一したカラーやモチーフの人をよく見かけるしいわゆる痛バッグなんかも見る。いちどゲゲゲの鬼太郎のぬりかべの痛バッグをもっている人を見た。ぬりかべの性格やエピソードは知らないがなるほど造形がとてもかわいいな……と感心した。

 

オタクだがあまりグッズに興味がない(というかあまりグッズが出ないものによくハマっている)ので、最近はせいぜい舞台Tシャツやトートくらいしかない。アイドルゲームのほうは推しているキャラのグッズが既存絵をつかった缶バッジやクリアファイルしか出ないので、正直、描きおろしじゃないならべつにいっかな……投資したところで推しには回らず運営の推したいキャラの養分にされるタイプの運営だしな……という顔になる。

チケットケースは舞台の物販であまり見かけないし、あってもたいていダサいか使いづらいかなので、市販のキャラクターものや美術館のグッズを使っている。舞台に行くオタクがいちばんよく使うグッズなのにどうしてチケットケースって物販であんなに雑な扱いなんだろうな。俳優の顔はブロマイドとかクリアファイルとかで充分おなかいっぱいになるのでチケットケースは雑貨としてかわいいのにしてほしい……。推しの顔がついてるものを鞄の中で雑に扱えないし……(雑に扱うなという話ですが)。

 

きのうはひどい雨だった。毎年レインコートを買おうと思いつつ気にいるのがなくてよしてしまうので、ノーガードの脚が濡れ放題に濡れた。ズボンがずっと冷たい。

昼はあたたかいものがいいなと思ったのだけれど、コンビニにあたためておいしくなりそうな弁当がなにもなかった。じゃあパンかー、とおもってパンの棚を見ると、ラグビーコラボのランチパック(肉)とことりっぷコラボのランチパック(りんごジャム&カスタード)があった。ランチパックは実に自由自在にさまざまな相手とコラボするな、と感心したので買った。

そういうわけで昼時は白い正方形4枚をチンするはこびとなった。白くてしっとりして熱くて正方形で食べるとおいしいものなーんだ(こたえ:チンしたランチパック)とどうでもいいことを考えながら食べた。どちらもおいしかった。しかし白い正方形のものを食べると昼飯になるの、なんだかいいな。そんなものあんまりないよな。豆腐だってポン酢くらいはかけるし。

江國香織の短編で、学校でいじめにあってノイローゼになった友達を訪ねていくと、友達は「白いものしか食べられないの」といってなにもかけない豆腐とかバニラビーンズの入っていないバニラアイスとかしか食べなくなっている、という話があった。江國香織は恋愛小説よりも、こういう生活のなかのちょっとした棘をおおげさに怖がるのでも逆に軽んじて笑うのでもなく、そこにあるがままスッと描くタイプのもののほうが好きだ。「流しのしたの骨」とか「赤い長靴」とか「ホテル カクタス」とか。赤い長靴はいちおう恋愛小説(夫婦の話が夫と妻のそれぞれの視点から語られる)だと思うがめちゃくちゃ怖いので下手すると10年くらい読みかえしていない。読んだときは「そんな背筋の冷やし方があるかよ!!」と叫んだ。どんな名前の関係性であろうが、他人と他人が暮らすということは、そこに断絶があるということなのだ、とあんなにさりげなくやさしく刃物を突きつけられたのは初めてのことで、そこがとてもよかった。

 

ラヴズ・レイバーズ・ロストの感想をかきながら、「誇り」について考えていた。作中では形式を捨てて心に従うことを是としていたので誓いをやぶり誇りを失ってもまぁいいじゃないかもっと大切なこともあるよね!となっていて、あれは物語としてもそれでいいと思うのだけど、それはそれとして自分自身を信用するためには誇りは大切だよな……と思った。

それで思い出したのだが大道芸に5000円払ったことがある。津軽三味線のパフォーマンスでたいへん面白く聞き応えもあったのだが、5000円払うかと言われれば、まぁ、正直、そこまでではなかった(だって5000円ってKAATの「ゴドーを待ちながら」とか「ビビを見た!」とかと同じくらいだぞ!)。でも1000円出そうとしたら手持ちが5000円札と10000円札だけで小銭もなかったうえに崩せるところもなく、結構悩んでから「金を払ってもいいと思ったものを無銭で見て帰るのは信条に反する、演者のためではなく自分のために払うべきである」と結論を出して渡したのだった。めちゃくちゃびっくりしていた。そらそうだろうな。いいんですかと言われたのでいやホントはあんまよくないけど…今月は節制だな…と思いつつも、「芸術には敬意を払うべきです」と答えた。あれはプライドゆえだったと思う。

まあ、つくづく馬鹿だな、とも思う。